課題テーマに挑戦「鳥海山」第30回 | 初心者向け無料作詞教室「原科香月の作詞の小部屋」友遊コミュニティ

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課題テーマに挑戦「鳥海山」第30回

2017年12月30日

 課題テーマに挑戦「鳥海山」第30回

今年も残すところ明日一日だけです。本年も皆さんにとって素晴らしい一年であったこととお喜び申し上げます。そして、迎える新しい年も更に良い年となりますよう祈念いたしております。

「鳥海山物語」ですが、昨日・今日と朝から書き進めています。早く完成させて、作詞作業に入りたいと思っています。もし、この「鳥海山物語」が、ご覧の皆さまに少しでも喜んで貰えたらこんな嬉しいことはありません。

 鳥海山物語

終 章(4回目)  昭和51年7月半ば

次の日曜日の午後2時過ぎに、お見合いをそして2度目にも会ったレストランに由美子と信彦の二人の姿がありました。

逢瀬という言葉にはまだ早すぎる二人の姿は、由美子からの申し出を信彦が快諾したことに始まります。

由美子は、素直に胸の内を語りました。

「信彦さんに聞いて頂きたいのですが、耳障りなこともお話しするかと思いますが、どうか私の話を聞いて欲しいのです。

母が言うのには、私には幸せになって欲しいけれど、総一郎さんとの結婚は諦めろと言うのです。それは、総一郎さんの親が反対していますから、どうしても無理だというのです。二人が駆け落ちしても、育てて貰った恩を裏切り、親を苦しめる最も大きな親不孝だと言うのです。親に、孫の顔を見せられないような結婚が果たして幸せと言えるのかというのです。総一郎さんのお父さんは、義理ある人から、婿養子に欲しいと土下座までされたと聞いています。総一郎さんのお父さんにも、大きな犠牲を強いることになってしまうというのです。親を苦しめてまで添い遂げても、それが本当の幸せか良く考えろと言われました。

私は、何が何だか分からなくなりました。総一郎さんには、もう二十通以上の手紙を送っていますが、返事がありません。総一郎さんと最後に逢ったのは、去年の五月です。『お互いに信じ合おう』と言ってくれましたが、どうして返事をくれないのでしょう。先月の半ばに、東京まで行きました。総一郎さんのアパートを訪ねるためです。

初めての東京は迷うばかりで、総一郎さんのアパートに着いたのは夕方近くになってしまいました。総一郎さんの姿はありませんでした。次の日に、もう一度訪ねてみましたが、住人の方の話しだと去年の夏ごろから姿が見えなくなったと聞きました。不思議なことに、郵便受けに、私の手紙は入っていませんでした。

私はすっかり疲れて帰りました。その後は、総一郎さんとのことは夢の出来事なのか本当のことだったのか、私には分からなくなりました。

総一郎さんが、少しでも私に愛情をお持ちになっているとしたら、こういうことはあり得ないと思えるし、いや何か事情があるのかも知れないと、私の頭の中はすっかり混乱して、ふらふらと日中でも夢を見ているような気分です。

今日、信彦さんにこうしてお聞きになりたくないようなお話をさせて頂くのは、私はこれ以上、母を苦しめたくないからです。

親兄弟や親せきの人に祝福されない結婚は、やはり本当の幸せとは言えないと、母の言う通りだと思えるようになったのです。総一郎さんも、私と一緒になって親兄弟と絶縁し、由緒ある実家の敷居をまたげないようでは、私が総一郎さんを苦しめていることになります。総一郎さんを苦しめる結婚なら、私は身を引こうと思うのです。

信彦さん、どうかもう少し我慢して聞いて下さい。私が、信彦さんと結婚するとしたら、誰をも苦しめないどころか、私の母や信彦さんのご両親、またお互いの親戚の方に喜んでいただけます。このことは結婚する二人にとっても、とても大切なことだと思います。

こういう言い方は、信彦さんに大変失礼なことは重々分かっております。信彦さんの気持ちを無視した、ただ身近な人たちへ迎合した、結婚の本質を忘れた愚かな女だと思われるでしょう。

この数か月、食事も喉を通らない毎日でした。夜は、しょっちゅう目が覚めて、明け方まで眠れない毎日でした。

私の父親は私が幼い頃亡くなって、物心がついた時から、私は辛い時にはいつも鳥海山に話しかけて来ました。そうすると、いつも心が安らぐのです。鳥海山は、私の父親だと今でも思っています。

でも、今回は誰かに助けて欲しいと思いました。私も、やっぱり女です。この苦しさから、誰かに救って欲しいと思いました。

怒らないで聞いて下さい。信彦さんと会ったお見合いの日に、とても信彦さんは人としても素晴らしい人だと思いました。でも、その時はそれだけでした。お電話をいただき、総一郎さんと将来の約束をしているからと、お断りをさせて頂いた時に、応援して下さるとまで言ってくれました。とても、有難いお言葉でした。総一郎さんと言う存在がなかったら私は喜んで承諾させて頂いたと思います。

今の私は、信彦さんに相応しい結婚相手とは言えない状態です。お時間を頂いて、信彦さんの愛を素直に受け入れられるようになるまで待っていただけたらと言うのが、今日お会いして頂いた理由です。勝手な事ばかり申し上げました。」

そう言って、由美子は信彦に深々と頭を下げました。

しばらく二人に沈黙の時間が流れ、やっと信彦が穏やかな笑みを浮かべて、由美子に語りかけました。

「由美子さん、どうもありがとう。何一つ隠さず、心の内を打ち明けてくれて、僕はとても感動しています。僕は、益々由美子さんが好きになりました。

僕の考えを、お話しします。由美子さんが、総一郎さんのことを忘れられないのは、当たり前のことです。忘れられるまでには、お付き合いした倍の時間が掛かるそうです。ですからそのことは、僕は何とも思っていません。でも、不思議ですね。総一郎さんは、いったいどうしたのでしょう?このままでは、由美子さんも身動きが取れないとは思いますが、どうでしょう?親が決めた通りに、結納そして婚礼と予定通りに進めませんか?

僕に、由美子さんの辛さを救ってあげる自信はありませんが、精一杯努力します。

結婚しても、由美子さんが、総一郎さんを忘れ、僕を生涯の伴侶と認めて貰えるその日まで、寝室は別にしましょう。そして、その日まで夫婦の契りは待つことにします。いつまででも、僕は待ちます。由美子さんの真実の愛が得られるその日まで。」

由美子はハンカチで顔を抑え、周りに聞こえぬように嗚咽していました。       つづく

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