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創作の小部屋 第2回「ブログ仲間に1億円進呈」

2017年11月12日

 ブログ仲間に1億円進呈

この新しいブログカテゴリー「創作の小部屋」に、今までに書いた幾つかの小話をアップしたいと思います。小話に特に意味はありません。ですので、気楽に読んで頂けたら、それだけでとてもありがたいことです。

 ブログ仲間に1億円進呈

≪1 章≫

安子さんは今年63歳になります。ご主人は3年前に亡くなり、年金で生活には困らない暮らしをしています。子どもは欲しかったのですが、授かることができませんでした。

2年前に市の社会福祉協議会の「独居老人話し相手ボランティア募集」に登録しておいたため、去年の夏から大学生の紗江さんが週に2日遊びに来てくれるようになりました。

紗江さんは若い人には珍しく、とても心配りの行き届いた優しい人でした。

「ねえ、やっちゃん。パソコンやってみない?」

遊びに来て半年も過ぎた頃、突然紗江さんは言いました。親子以上に歳が離れているのに、親しくなった二人は、「やっちゃん」「さっちゃん」と呼び合っていました。

それから間もなく、二人は近くの電気街に行き、パソコン一式を購入しました。

さっちゃんんの指導で文字の入力から、少しずつほんの少しずつ覚えていきました。

2ケ月を過ぎる頃には、大分慣れました。

「やっちゃん、ブログやろう!」

さっちゃんは、また突然いいました。

さっちゃんがすっかり準備をしてくれました。ブログネームは、「ドッキョビジョ No1」です。これも、さっちゃんが考えてくれました。

初めは文章を考えるのも大変で、また人様に読んでもらうなど、とても恥しく勇気がありありませんでした。でもさっちゃんが側でいちいち指導してくれ、また手直しもしてくれましたので、安心してアップしました。

そういう時期が一月近く続くと、安子さんも安心して、一人で出来るようになりました。

「主人に先に逝かれた、独居老人です・・・。子どもは、欲しかったけれど授かることができなかった・・・。」

「今日の夕飯は、手作り餃子です・・・。」

他愛もないことを思いつくまま、書いていました。

初めは、一人で出来る、また私の書いたものを、全国の方が見てくださる、それだけで、もう充分満足でした。

コメントなど全くありませんでしたので、誰が見てくれているのかなど気にもしていませんでしたが、「オヤフコウ007」という文字が最近妙に目に付くようになりました。

その頃、安子さんは膝に少し痛みを感じていましたので、通販でサポーターを購入しました。その通販会社は、購入するといろいろサービスがあり、今回は抽選で50名に宝くじ30枚をプレゼントというものでした。

「えっ、宝くじ貰ったの?」

ある日、夕飯作りを手伝いに来たさっちゃんは、驚いたように言いました。

「このサポーターを買って、抽選で当たったんだよ。さっちゃん、1等2億円当たったら、さっちゃんにあげるからね。」

安子さんは、笑いながら言いました。

「私、お金なんかいらないよ。もし当たったら、思いっきり贅沢しちゃえば?」

さっちゃんは、小遣いは不自由していないし、けっこう親に資産があるからと、お金には無頓着のようでした。

「やっちゃん、どうして私にくれるなんていうの。お金はいくらでもよけいにあったほうが、いいじゃない?」

「それはね。お金なんか、生活するのに特に困らなければ、余計にはいらないのよ。私の父がね、事業で成功して、お金が貯まったら、家に帰らなくなり、あれ程仲のよかった母と離婚してしまったの。お金のせいだわ。私は、普通のサラリーマンの主人と結婚して、特に裕福ではなかったけれど、困る事もなかったわ。充分幸せだったわ。」

 

≪2 章≫

ブログの書き方にもすっかり慣れ、最近は他の人のブログにも首を突っ込んだりもしています。でも何か怖くてコメントを書き込むことが出来ずにいました。

また、たくさんのコメントを貰っている人が羨ましくてなりませんでした。

「私はこの前、宝くじ30枚を手に入れました。もし、2億円当たったらどう使うかを考えています。どなたか、一緒に考えてください!」

安子さんは、もしかしたら誰か返事をくれるかもと、関心を持ってもらえそうな話題を書き込みました。

書き込んで、しばらくパソコンの前で、静かに待っていましたが、やはりいつものように、誰からも何の反応もありません。

あくる日、午後の食事を簡単に済ませ、パソコンを立ち上げてみると、驚きました。コメントがありました。「オヤフコウ007」というブログネームの人でした。

「初めて、コメントします。俺が2億円当たったら、盲導犬の育成施設を作りたいと思います。それは、親父が失明しているからです。親父に、盲導犬を、プレゼントしたいからです。」

初めてのコメントに、安子さんは有頂天でした。嬉しくて、直ぐ返事を出しました。

「オヤフコウ007さんへ コメントありがとう。コメント貰ったの、初めてです。ありがとうございます。オヤフコウ007さんは、お優しい方ですね。お父上様に、盲導犬をプレゼントするために、施設を作ってしまいたいなんて。分かりました、もし、私が2億円当たったらあなたの親孝行に協力して、そっくり差し上げましょう!」

もちろん安子さんは、宝くじの一等に当たる筈もないのを前提に、ただこうしてブログを通じて初めて知人が出来たことが嬉しくて、迎合したコメントを返送しました。

その後、秘密のコメントで「オヤフコウ007」さんと何度かやりとりをして、少しずついろいろ分かってきました。

彼は、もう30代も後半。最近、派遣会社から首を切られたこと。彼は、国立大学に合格したにも拘わらす、2年で中退してしまったこと。彼の学費は、父親の労災からの入金によるものであったことなどでした。

「親父は、近くの工場で働いていましたが、俺が高1のとき仲間の人が足を滑らせて、苛性ソーダを親父の顔にかけてしまい、それが原因で親父は失明しました。

俺の大学の学費は、労災から支給されたお金でした。俺は、2年のときアルバイトに夢中になって、全然大学に行かなくなって、でも仕送りは貰っていました。お金は女の子と海外旅行に行ったりして消えました。

本当なら卒業の筈の2月の末頃に、いきなり親父とお袋が俺のマンションに夜遅く来ました。俺がいなかったので、近くのファミレスで待っていたみたいでした。

結局その晩に、大学を中退をしたことがばれました。親父は、背中を向けて、何も言いませんでしたが、両肩が大きく揺れていました。

お袋は、ハンカチを顔に当てて、声を殺して泣いていました。

ああ、親父の目の明かりの代償を、俺は、俺は・・・。

学歴の大切さは、今になってやっと分かりました。親父が大学に行けって、それこそしつこく言ったその意味がやっと分かりました。

高卒の何の資格もない俺には、仕事を探してくれる派遣会社が楽で、つい頼ってしまいました。期間契約で何度も職を変えましたが、いくら残業をしても、手取り21万円を超えたことはありませんでした。ボーナスもなし、年収手取り約250万円。これでは、結婚も出来ないし、もちろん持ち家なんて夢のまた夢です。

ドッキョビジョNo1さんは知らないでしょうが、俺みたいな人間はワンサといます。毎月借金の返済で殆ど生活費がないやつも大勢います。でも、何とか生きています。

ドッキョビジョNo1さんにコメントしたのは、お袋と同じくらいの人だと思ったからです。前から、ブログは読んでいましたが、コメントしたのは、2億円が当たったらどう使うかと、随分面白いことを平気で書くのんきな人だし、よし付き合ってやろうかと。

でも、少し真面目に考えたら、親父の目の代償を無駄にしたお詫びに、盲導犬をプレゼントしたいなと思いました。ネットカフィで調べてみると、盲導犬を必要としている人は1万人もいるのに、盲導犬は日本にはまだ1000頭位しかいないそうです。

これでは、親父が生きている間にプレゼントをするのは無理なので、自分で育成する施設を作るしかないかなと思いました。

そんな出来もしない夢を見て、自分を慰めています。でも、もし夢が実現したら親父に一番初めの盲導犬をプレゼントし、ごめんなさいと詫びたいと思います。」

安子さんも、返事を出しました。

「オヤフコウ007さんへ あなたのお気持ちは、よく分かりました。でも中退したことを正直に言わず、その後も仕送りをさせていたことは、私があなたの親ならとても許せません。学歴でなく実力だなんていっても、大学を出ていないと、仕事を選ぶ前に弾かれてしまうのが現実だと思います。

あなたのご両親は、あなたに仕事の選択肢をたくさん持って貰いたかったから、大学を強要したのでしょう。そのために、喜んで明かりの代償さえあなたに捧げたのでしょう。

でも、それはもう済んでしまったこと。確かにお父上様に、一人でも外出ができるように、盲導犬をプレゼントできたら、どんなにお喜びになることでしょう。

宝くじとか競馬とか、私はやったことがないけれど、でもそんなことを少しでも当てにしているようでは、反省しているとは言えないと思います。何故なら少しも現実的でないからです。現実的に考えて、今あなたがご両親様に一番喜んで貰えることを考えることが大切だと思います。」

 

≪3 章≫

そんなやりとりをしているうちに、季節は変わり何時しかさっちゃんが来てくれたまた夏がやってきました。

「やっちゃん、どうブログの友達たくさんできた?ブログ始めて、もう4ヶ月になるよね。」

さっちゃんは、心配そうに聞きました。一人でも退屈することなく、張りのある生活をして欲しくて勧めたブログだったからです。

「さっちゃん、私どうしても引っ込み思案なほうでしょ。みんな、綺麗な写真を載せたり、絵文字っていうの?年配の方でも、とても器用に使いこなして、私にはとてもとても。」

さっちゃんも、何度か教えてはあげたのでしたが、覚えられないというよりは、やはり恥しさが邪魔をしているような気がしました。無理に使う必要はないと思い、しばらくは文字だけで良いのではと、さっちゃんは思いました。

「あっ、そうそう。やっちゃん、宝くじの抽選もう終わってるわよ。サマースペシャルだったわよね。もう調べたの?」

「えっ、あっそうなの。すっかり忘れていたわ。でもいいわよ。どうせ当たりっこないよ。300円の当たり券じゃ、交通費のほうが高くついちゃうし。」

「やっちゃん、宝くじはネットで調べられるの、知ってた?」

「え~、インターネットで調べられるの?知らなかったわ。」

「練習になるから、調べてみない?」

さっちゃんの指示通りに入力すると、サマースペシャルの当選番号が現れました。30枚もあるのです。調べるのもけっこう根気がいります。

「さっちゃん、どうやって見て行けばいいかな?」

「そうだね、失礼だけど、どうせ当たりっこないから、一番下の7等から見ていこうよ。」

7等・・6等・・5等・・4等・・見ていくうちに疲れてしまった二人でした。

「さっちゃん、もう止めよ!もう、いいよ。7等1本に6等1本、もう充分だよ。ネットで調べることを覚えたし。」

保子さんが冷凍庫から出した「抹茶アイス」を食べながら、またブログの話になりました。

「やっちゃん、さっきの続きだけど、友達できた?」

「うん、できたよ。一人だけど。」

「どんな人?」

「40近くの男の人でね。大学中退で、4月に派遣の仕事首になっちゃった人なんだけど。お父さんが、仕事で失明して、その労災の補償で学費と生活費を払って貰っていたのに、2年で中退しちゃったんだって。

その上、中退したことを黙っていて、ずっと仕送りして貰っていてね。でも、それが知れたとき、お父様は責めることもなく、ただ肩を震わせて泣いていたって。」

「ふ~ん、ひどい人ね。」

「でも今は心から反省して、もし出来たら盲導犬の育成施設を作って、初めの盲導犬を、父親にプレゼントしたいんだって!」

「ふ~ん、でも夢のまま終わってしまいそうな、随分とスケールの大きい話だこと。」

さっちゃんは、「オヤフコウ007」さんが勝手過ぎるような気がしました。

我が儘なことをして、それでいて、叶えそうもない夢を抱き、自分の愚かさをカモフラージュしている。自分の罪を、夢想の世界で美化して!どこにそんなお金があるっていうの?ましてや、失業中!?甘えるのもいい加減にして!

さっちゃんが帰った後で、安子さんは何かやり残したことがあるようで、こころなしすっきりしない思いでした。

何だろう?何を忘れているのだろう?

 

≪終 章≫

次の日は年金の振込み日で、つい先月は買い物やら何やらで財布の中が少なくなり、銀行にやってきた安子さんでした。お金をおろした後、商店街に向かいました。さっちゃんのために、ハンケチと白い麻の帽子を買うつもりでした。

「これ、可愛くてさっちゃん、喜ぶかな?」

楽しそうに、見て回る安子さんでした。ふと前を見ると、中年の男の人が犬に引かれて、そう確かに引かれて、歩いて来ました。

「あっ、そうだ!忘れていたのは、これだ。オヤフコウ007さんとの約束だ。

もちろん当りっこないのは分かっているけれど、でも途中で見るのをやめたのは、約束違反だ!」

安子さんは、家に帰るやパソコンの電源を入れました。立ち上がるのももどかしく、30枚の宝くじを並べ始めました。

4等までは既に見てあるので、3等から見ていけばいいので、先ず3等の下2桁を見て、該当券は更に下4桁と見ていきましたが、もちろん全部外れです。

こんどは2等の当選組の11組があるか確認しました。1枚だけ、11組がありました。

まあ、いいや、次いこう。1等当選組13組を探しましたが、2枚ありました。

その下2桁を見ると、当然外れです。やっと終わった。

まあ、こんなものだと思う。所詮、当たる筈がないのだと納得して、パソコンの電源を切ろうとして、2等の当選番号を確認していないことに気づきました。

「まあ、一応見ておかないと。」

~夕ご飯、さっちゃんを誘ってみようかな?来てくれるかな?~

夕飯の献立を考えながら、目だけをだるそうに数字を追っていきました。

「191・・・ええと737?あれ!合っている。いや、合っている筈がない。どれ、もう一度。19・・17ええと37?あれ!やっぱり合ってる!」

やすこさんは、さっちゃんの携帯にすぐ電話しました。

「さっちゃん?私、安子。大変なの。もし、できたら夕飯がてら、来てくれない?」

さっちゃんは、心配顔で直ぐにやってきました。

さっちゃんは、すぐ事の成り行きを理解して、もう一度ゆっくり確認しました。

「サマースペシャルの11組で間違いなしと。番号は、1917ええと37?合っているよ。やっちゃん!間違いないよ。2等だよ。1億円!」

二人とも、少しの間震えていました。

「もう大丈夫?やっちゃん!」

先にさっちゃんが、声を出しました。

安子さんもやっと落ち着いて、首を立てに振りました。

「このお金、どうするの?」

「さっちゃん、欲しくない?欲しかったら、あげてもいいけど?」

安子さんは、冷静になった今も、やはりお金は必要な分だけあればいいと思いました。さっちゃんも、分不相応なお金は、決して自分のためにはならないことを知っていました。

「やっちゃん、大事な人を忘れていない?親不孝のわがまま中年親父!!」

「えっ、あっ、そうだよ。あの人との約束を守ろうとして、どうせ当らないと思ったけど、確認したんだっけ!」

さっちゃんに、直ぐ脇で、アドレスの文字と言葉を確認してもらいながら、次のようなメッセージを、「オヤフコウ007」さんに送りました。

「オヤフコウ007さんへ  このメッセージは、オヤフコウ007さんだけに送るもので、他の人が目にすることはありません。以前この宝くじが当ったら、オヤフコウ007さんに差し上げますって約束したことを覚えていますか?

もちろん私は、当ることなどある訳がないといたずら半分でしたが、本当に当ってしまいました。私には必要のないお金ですので、約束どおり差し上げます。ただし、「オヤフコウ007」さんも私との約束どおり、盲導犬の育成施設を作り、一番最初の盲導犬は、お父上様に差し上げてください。詳細は、メールにてお知らせいたします。アドレスを返信してください!」        おわり                                                    

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