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課題テーマに挑戦「鳥海山」第14回

2017年10月02日

 課題テーマに挑戦「鳥海山」第14回

私は茨城県のつくば市に住んでいます。筑波山の麓に近いという感じの田舎です。

今、私は2階の自室でパソコンに向かっていますが、南側の窓を少し開けています。虫の音が聞こえるからです。昆虫に詳しくないのでコオロギと鈴虫しか分かりません。ですが、決して飽きることの無い音色です。

それでは、「鳥海山物語」第3章(1回目)をご覧くださいませ。

 鳥海山物語

第3章(1回目) 昭和49年1月

池には、赤や金色の錦鯉が優雅に泳いでいます。その池の近くを、何人かの使用人が忙しそうに行き来しています。ここは、総一郎の生家なのです。総一郎は、正月で帰省しました。

離れの八畳間で、世界史の本を読んでいる総一郎に、女中のお里が障子の向こう側から声を掛けました。

「総一郎さん、お父様がお呼びです。」

総一郎は、面倒そうに本を閉じて、父親の部屋に向いました。

父は着物姿で座卓に新聞を広げていましたが、何か考え事をしているように総一郎には感じられました。

「総一郎、ちょっと話がある。そこへ座れ。」

総一郎は、父と真向いの位置に腰を降ろしました。

「総一郎、もう直ぐ卒業だ。東京の北星産業への就職は良かった。この会社はこれから大いに伸びると思う。

ところで総一郎、仁賀保には私が昔からお世話になっている竹内義彦さんという人がいるんだが、おまえも何度か会ったことがあるから覚えているだろう。

竹内さんは、結構大きな電機部品を作る会社を経営しているんだが、お前のことを気に入っていて、北星産業で何年か働いた後に、竹内さんの会社に来て欲しいと言うんだ。さっきも言ったが、私が大変お世話になった方だから、私からもお前に頼む。ぜひ、そうしてやってくれ!」

総一郎は暫く考えさせてほしいと父に話して、俯きながら離れの部屋に戻りました。

部屋に戻ると座布団を枕に総一郎は横になり、父の本意を知ろうと思いを巡らせました。

いつだったか、確か中学3年生の頃に、両親が竹内義彦さんの話をしていたのを思い出しました。確か竹内さんには子供が一人で、それも娘さんらしく、跡取りのことで悩んでいるようだとか、そういう話だったように記憶していました。

父は、まだ本当のことを言うのを躊躇しているのだろう。総一郎に、竹内家の養子に入って欲しいと話すのは時期尚早と考えているに違いないと確信しました。

総一郎は由美子のことを想い、そう遠くない時期に自らの本心を父に話さなければならないと、総一郎は天井を見つめながら覚悟しました。        つづく

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