課題テーマに挑戦「鳥海山」第31回
2017年12月31日
課題テーマに挑戦「鳥海山」第31回
平成29年も本日のみで終わります。新しい年が、このブログを見て頂いている方々にとり、健康で益々ご発展・ご活躍される1年となりますよう祈念致しております。
課題テーマに挑戦「鳥海山」も今回で31回目、こんなに長くなったのは初めてです。秋田県のアップルスターさんから「鳥海山」の作詞ご提案を頂いたとき、恥ずかしいことですがイメージが全く湧きませんでした。見たことも、もちろん登ったこともない訳ですから当たり前かもしれませんが。それで「鳥海山物語」を創作し、その主題歌としての作詞をと考えた訳ですが、こんなに長くなるとは露ほども思っておりませんでした。
今朝も6時前に起きだしてパソコンに向かっておりますが、何とか9合目まで辿り着くことが出来たように思います。さっそくご覧頂きます。
(アイキャッチ画像も上記の画像も同じですが、今回は「ウィキペディア」さまより拝借させて頂きました。北北東からの鳥海山ということです。)
鳥海山物語
終 章(5回目) 昭和51年8月~9月15日
由美子と信彦と互いの親、そして仲人となった由美子の紡績工場の専務さんという僅かな人たちでの結納も無事済んで、あっという間に祝言の日が訪れました。
今回は多くの招待者の祝福を受けて、隣町のそれ程大きくないホテルで由美子と信彦の結婚式は執り行われました。式の途中、由美子は何度も涙を流しましたが、周りの者たちは皆嬉し涙と疑いませんでした。
「きれいな花嫁さんだね!」
あちこちから感嘆の声が上がりました。この日、親戚の者から借りた着物を着た母のふみ子は、それらの声を聞くたびに満面の笑みを浮かべていました。
花婿の信彦も緊張の中にも喜びを抑えられず、友人たちの祝福の声に涙ぐむシーンも見られました。
三々九度の杯の時の由美子は、杯を持つ手が震え、注がれた杯に口を付けることを一瞬躊躇しました。それに気付いた信彦の哀願するかのような目配せに、意を決してやっとその儀式を終えることが出来たのでした。
式場が酒盛りで賑やかさも頂点に達したころ、由美子は仲人の専務さんご夫婦と三人、待たせておいたタクシーに乗り、御嶽神社に向いました。
このことは、予め信彦にもお互いの両親にも許可を得てありました。それは、結納の儀式が済んで、一同が寛いだその時に、由美子は「お願いがあります!」と全員の前で頭を下げたのです。
「お願いがります。結婚式の日に、私はどうしても御嶽神社にお参りをしたいのです。私には、御嶽神社には幼い頃からの思い出があります。御嶽神社を詣でることは最後かもしれないので、結婚式の日に最後の挨拶をしたいのです。」
この由美子の願いに異を唱える者は誰一人いず、却って仲人の専務は「最近の若い人が町の神社仏閣にお参りするなどという姿を見たことがない。いや、若い由美子さんが、これほど信心深いとは素晴らしいことだ。」と褒め称えました。その時、信彦の母の智恵子が、「それなら宴たけなわの頃、タクシーを用意させて頂きますから、専務さんご夫婦と一緒にどうかしら?三十分もあれば行って来られるでしょう。」と提案し、みな頷いた。
御嶽神社に着いた由美子は、タクシーから降りると専務の奥さんに手を取られ境内に入りました。先ず水舎(みずや)で手を洗い、拝殿の前に立ちました。
由美子は軽くお辞儀をし、懐に用意してあった和紙で包んだお賽銭を置き、鈴を鳴らしました。神社の柏手は二礼二拍手一礼と決まっています。由美子は、最後の一礼の時に、心の中で念じました。
「総一郎さん、私は信彦さんに嫁ぎます。これが、これが二人にとっての最良の道だと信じています。許しは乞いません。総一郎さん、幸せになってください!」
式場に戻ってみると、宴はたけなわで、由美子が席を外したことさえ気付かぬほどでした。
こうして、鳥海山が良く見えるある町の片すみに、一組の夫婦が誕生したのでした。 つづく