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創作の小部屋「独居老人のひとり言」第4回

2019年03月28日

 「独居老人のひとり言」第4回

夕方、近くの池を散策し、桜の開花状況を見てこようと思ったのですが、この「独居老人のひとり言」に本日は没頭してしまいました。朝5時から書き始め、目が疲れて来ました。私は、花粉症持ちですので目薬が欠かせません。もちろん眼精疲労と花粉症は違いますから、目が疲れたからと言って花粉症の目薬を差すわけにはいきません。少し横道に逸れました。

  「独居老人のひとり言」第4回

第3章 息子夫婦からの贈り物    

妻が亡くなり2ヶ月が過ぎた頃だったと思う。不意に家の前に宅配の車が止まり、運転手が降りてきた。運転手は、小さな段ボールの箱を差しだしサインを求めた。早速、仏壇の前に座り、差出人の名前を捜した。それは息子の嫁の由美子からの物であった。開けてみるとカメラのようであった。

カメラには違いないが、どうも昔のカメラとは勝手が違っていた。説明書を見てみたがどうも分かり難く、その日はそのまま箱に仕舞い込んだ。翌日、近くに住む同級生の橋本の家を訪れた。橋本は、昔から写真に凝っていて有名だった。今は地区の区長をしている。

「隆明ちゃん、これはデジタルカメラと言って、昔のカメラのようにフィルムは使わないで、その代わりにSDカードという物を入れて撮影するものだよ。何回でも消したり出来るから、フィルムのように買い直す必要がないからお金が掛からないよ。写したカードを写真屋さんに持って行けば昔と同じように、何枚でも作ってくれるよ。」

橋本は詳しく説明してくれて、どうせならパソコンと連動させた方が楽しいと積極的にパソコンの導入を勧めてくれた。私はパソコンという物について全く知識を持っていなかった。ただ、パソコンを使いこなす友人がとても輝いて見えまた羨ましく、自分もそうなりたいと強く思った。

橋本の話しだと、市の無料パソコン教室があり、今が募集中だという。パソコンという言葉はとても響きが良く、何か憧れのようなものを感じ、さっそく申し込むことにした。市の無料パソコン教室は月に2回あり、6ヶ月コースとのことだった。

パソコン教室には、私と同じくらいの60歳を超えたと思われる人も数人混じっていた。何度聴いても覚えられず、もう止めようかと何度も思った。しかし、私だけではなく、他の定年を迎えたと思われる人たちも覚えられないと休憩中に愚痴をこぼした。このパソコン教室は続けながら、数名の人達で独自に勉強会をやろうと誰からとなく話がまとまり、毎週水曜日に近くの公民館に集まることとなった。もちろん私も仲間に加わった。

数日の後、友人の橋本に同伴してもらい、大型の電気店に向った。もちろんパソコンの購入が目的である。値段・性能・画面の大きさなど橋本は細かく説明してくれ、店員に値段の割引交渉までしてくれた。

細かいセットアップなどは、みな橋本が設定してくれたので、後は実際に文章を書いたり、表を作ったりするのは少しずつ覚えることにした。もちろん、デジカメで撮った写真の扱い方も少しずつで良いと考えた。

最近は、台所での大根を切る音もリズミカルになり、それだけ一人暮らしに慣れたということなのか?台所には玉ねぎやジャガイモの箱があり、冷蔵庫の中には冷凍食品がたくさん入っている。買い物は3日に1回程度、卵や野菜など買い溜めできないものをスーパーへ買いに行く程度である。

息子の嫁が送ってくれた1台のデジカメが、私の生活を大きく変えた。妻への哀惜の念からひと時も離れられず、半ばうつ病のように涙もろく虚ろな毎日から、大分前向きに生きることが出来るようになった。

パソコン教室で学んでいる時、そしてその中から生まれたパソコン仲間との勉強会の時間、少なくともその時だけは妻を忘れられた。生きていて楽しいと感じられたひと時であった。

息子夫婦は、私のことをすべて見抜いていたのだろうか?デジカメ1台で、私を救うことが出来ると本当に思っていたのだろうか?

息子夫婦がどう思おうと私が変わったのは事実だし、わざわざ送った理由を尋ねたいとは思わなかった。                              つづく

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