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創作の小部屋「独居老人のひとり言」第13回

2019年04月14日

 「独居老人のひとり言」第13回

上の画像は、昨日訪問した小山市を流れる思川堤の「思川桜」です。この「思川桜」は、とてもきれいなピンクの桜です。もう遅いかと思いましたが、まだ8分咲きといったところで蕾もまだまだたくさんありました。

さっそく「独居老人のひとり言」に入ります。

 「独居老人のひとり言」第13回

12章 早期退職の理由

不思議なことに、その後も何度か同じスーパーでやはり同じ時間に大川さんに会うことが続いた。

思い切ってある日尋ねてみた。

「大川さん、良く最近お会いしますね?これから、夕飯ですか?息子さん、もうすっかりお腹を空かしているんじゃないんですか?」

少し意地悪だったかも知れない。今度こそ聞こうと考えていたのだが、私の声は多少上ずっていた。

「そうなんですけど、でも私も家計のやりくりが大変なんです。先日、小松さんから休憩の時間に伺ってから、私もそうしようと決めたんです。息子も、分かってくれて待っていてくれます。」

私は、正直驚いた。この大川さんは、身なりも良いし、とても家計費を切り詰めなければならないような生活臭は微塵も感じられなかった。人は、見た目では何も分からない。特に、私の愚推ほど当てにならないものはない。

二人とも買い物が済み、そのスーパーの駐車場に向う途中、カートを押しながら大川さんが話し出した。

「私、56歳の時、選択定年制で早期退職をしたんです。本当はその会社でずっと、出来れば65才まで勤めていたかったんです。でも、息子が過酷な労働と上司の叱責から、体調を崩し、うつ病になってしまいました。労働組合にも相談し、また公の相談窓口にも足を運びましたが、どうしても会社は労災とは認めてくれず、結局裁判しかないということになりました。

私たちに裁判をするだけのお金に余裕はありませんので、止む無く引き下がりました。無職となった息子は、自分の部屋に入ったままで、外に出ることも避けるようになりました。私は会社の仕事をしていても、息子のことが気がかりで、時々帳簿上の計算ミスをするようになりました。

ちょうどその時、会社は55歳以上を対象とした『早期の選択定年』の募集をしておりましたので、私は応募しました。将来の生活より、その時の息子が心配で、少しでも寄り添っていたかったのです。」

そこまで話すと、大川さんは小さくため息をつき、私に謝罪した。お腹が空いているのに長話をして申し訳ないと、無理に作った笑顔を私に向けた。

「私は大丈夫ですよ。息子さんが待っているでしょうから、今日はこの話は終わりにして、この続きは近いうちにしましょうよ。私でお役に立つことなら、何でも致しますから。」

ここで別れた。人は、明日のことは分からない。人は時として、自分の人生や家族の人生が病や外部の要因により、命の危機に直面したり、また生活状況の大きな後退を余儀なく強いられることがある。そして、そんな瞬間は何の前触れもなく突然やって来る。私は、妻の死で骨身に沁みていた。 つづく

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