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創作の小部屋「独居老人のひとり言」第15回

2019年04月18日

 「独居老人のひとり言」第15回

桜の花も殆ど散り、若葉の季節がやって来ました。上の画像は、小山市の思川堤に咲く「思川桜」です。私も先週の土曜日に訪れました。

いつも見る桜よりとても美しいピンク色で、まだ満開ではなく大きな蕾はより深いピンク色でした。また、来年も伺おうと思っています。(この画像は、ウィキペディアさまより拝借させて頂きました)

さっそく「独居老人のひとり言」に入ります。

  「独居老人のひとり言」第15回

第14章 独居老人の孤食の弊害

私は栄養学というものを知らない。

妻が亡くなる数日前に、まだ意識がしっかりしている時に、私に言った言葉を今も忘れない。

「ただ、心配なのはお父さんが一人でご飯を作ったり、洗濯したり、それが一番心配・・・・」

妻が心配したのは、食事に関しては私が妻に頼り切りで、殆ど料理というものをしたことがなかったからだ。妻が亡くなって2ヶ月が経った頃、すっかり落ち込んでいた私に、息子の嫁がデジカメを送ってくれて、パソコンの勉強会に繋がった。その時私は新鮮な学びに、ひと時悲しみから逃れられ、生きる意欲と共に、食べるという行為にも前向きになったものだった。

初めは、炊飯器の使い方も分からず、息子の嫁の由美子に電話して教わった。確か、妻の葬式の後、四国へ帰るという前の日、由美子は台所に私を呼び、一通り自炊の方法についてレクチャーしてくれたような記憶がある。その時は、私は悲しみの真っただ中で、何を聞いても上の空だった。

パソコン教室や勉強会に出るようになってから、確かに大根を切る音もリズミカルになってはいた。しかし、大根は味噌汁の具で、その他の副食は、卵焼きとか納豆・豆腐といった調理とは言えない代物ばかりを繰り返していただけであった。野菜を意識して摂るというようなこともなかった。

そのうち自炊にも飽きてきた。またご飯を1人分だけ炊くというのも、面倒になった。食べ切れずに、捨ててしまうことも度々ある。スーパーの惣菜は便利だった。最近のスーパーは小分けにしてあり、自分で作るよりも手間がかからず、安上がりなような気がする。電子レンジの使い方も、由美子に教わって、とても重宝している。

パソコンの勉強会で大川さんと出会い、スーパーで良く会うようになった頃、息子の嫁の由美子から郵便物が届いた。さっそく開けて見ると、千葉県のホームページから印刷した『高齢者のための季節の献立集』というものだった。最初に以下のような文章が目に入った。

「高齢者の低栄養を予防し、要介護状態への移行の防止や遅延を図り、高齢になっても元気で生き生きと暮らせることを目的に、千葉県と千葉市が共同で作成した献立集です。一人暮らしの男性でも気軽に作れるようなメニューを中心に、バランスのよい食事ができるようレシピ集を作成しました。旬の食材を取り入れた春夏秋冬にあわせたレシピとなっています。」

もちろん高齢者が病気で入院したり、寝たきりになり介護施設に入所したりすると、地方自治体の財政に大きな負担が掛かる。高齢者には元気でいて貰わないと困る訳だが、老人にしても最後まで自分のことは自分でしたい。私は、息子夫婦にも介護施設の世話にもなりたくない。

検索用のタグさえラインで教えてくれればお金は掛からず済んだのに、わざわざコピーを送ってくれたのは、私の健康を気遣ってくれる真心が感じられた。

一人暮らしは、どうしても生活がルーズになる。孤食というのは、やはり寂しい。どうしても同じようなメニューが続き、食べるという行為自体に喜びが感じられなくなってしまう。その結果、食事の回数が減ることになり、一日2回という時もある。昔、子どもが幼い時は、親子3人、朝と夜はいつも同じ時間に食卓を囲んだものだった。あの頃が、たまらなく恋しい。

さっそくメニューを見てみることにした。先ずは、春のメニューである。それは4週分に別れ、7日ごとに朝昼晩の3回分が表になっていた。朝はご飯とみそ汁が多いが、パンの時もある。納豆のような手を加えないおかずもあるが、煮物など殆ど手を加えたものが多い。手を加えるということは、簡単に言えばそれだけ頭を使うということである。痴呆症予防も考慮されているのかと感心してしまった。

季節の物(菜の花・たけのこ・春野菜)も取り入れた、想像しただけでも食欲をそそりそうな献立表だった。また、初めて見るような料理にはちゃんとレシピが用意してあり、私でさえも何とか作れそうな気がした。ただ料理初心者の私には、栄養のバランスを考慮しているためか種類が多く、知らない料理が多いのが少し気になった。

カレンダーに合わせ、先ず2週目10日の夕飯「じゃがいもとキャベツの甘煮」を作ることにしたが、このレシピは載っていない。台所には、しょうゆ・味噌・塩・砂糖・コーン油・コショウ・七味唐辛子程度の調味料はあるが、それだけで作れるものなのか見当がつかない。

私は少し迷ったが、大川さんに相談することにした。電話を掛けると、大川さんは途中言葉を挟まずに最後まで私の話を聞き「今日もいつもの時間にスーパーへ行くので、私で良ければいいですよ」と、明るく答えてくれた。                           つづく

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