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創作の小部屋「函館物語」第9回

2022年03月12日

 創作の小部屋「函館物語」第9回

大分、春めいて参りました。各地から様々な花の開花の様子が報告されています。

 

この陽気につい心も緩みがちになってしまいますが、今この瞬間も命の危機に晒されている多くの人々がいます。

たった一人の人間の考えで、多くの何の罪もない子どもまでをも含む人々が殺される、こんな理不尽なことがあって良いものでしょうか?私はどうしてもアドルフ・ヒトラーを思い出さずにはおられません。すべての部下がイエスマンとなり、如何なる極悪非道の命令にも服従した且つてのドイツが、現在のロシアと重なり合って見えるのは私だけでしょうか?

今、プーチン大統領はウクライナの原子力発電所や民間の住居、そして病院にまでに対してもミサイルを撃ち込んでいます。ロシアには核があるため、世界をも巻き込んだ地球破壊の規模の戦争に発展しかねない状況を、世界各国は恐れています。ですが、これが日本だったらどうでしょうか?ウクライナの人々だけが犠牲になり、世界の人々はロシアの暴挙に正面から立ち向かえないのです。これが通るならロシアと同じように、いくつかの国の首脳が世界を甘く見て、同じことを繰り返すかも知れません。

一人ひとりには力はなくとも、無言でいるよりは、他国侵攻戦争反対と大声で叫ぶべきだと思います。

  創作の小部屋「函館物語」第9回

第9章 真知子さんのお母さんと一緒の食事

真知子さんのお母さんに心配をかけるのは、私の本意ではない。もちろん初めての顔合わせで、将来を約束される訳でもない。だが、二人の真摯な交際を信じて、温かい眼差しで応援して欲しいと思っている。

ただ、私には一抹の不安があった。初めて立待岬をデートした時に真知子さんが言ったことばである。

「私の父は、建設会社を経営しているの。私は薬剤師だから、家業は継げないし。父は、いろいろ考えているみたい。いずれお婿さんを貰って、お婿さんに会社を任せたいようなことを私が中学生の頃言ったことがあるわ」

正直、この時の言葉が、私を真知子さんの両親に会うのをためらわせる。真知子さんのお父さんは二人の交際を歓迎してくれるだろうか?

いつかは通る道だ。覚悟をした私は、真知子さんの家を訪問する約束をした。

ある日曜日、前日に理髪店に行き、そして一着しか持っていないスーツを着て家を出た。約束の夕方6時少し前に真知子さんの家に着いた。5~6段ある階段を登り、玄関のチャイムを鳴らした。待っていましたとばかりに、玄関のドアが開き、真知子さんの満面の笑みが私の目の前に迫った。

真知子さんのお母さんも玄関に顔を見せて、「さあ、どうぞ!」と家の中に招き入れてくれた。

応接間の椅子に座った瞬間、私と真知子さんの生活のレベルの違いを感じた。広い室内にはグランドピアノが置いてあり、大きなマントルピースは冬の寒さからこの家の住人を守っているかのようだ。私は、貧しさを恥じてはいないが、まだ世間に疎い私は圧倒されて緊張した。

真知子さんがコーヒーを運んできた。決して派手さはないが、その黒く光ったコーヒーカップにも何故か威厳のようなものが感じられた。私の横に真知子さんは座った。今日の真知子さんは普段着という格好で、白のセーターに薄茶のスカートをはいている。

「晴彦さん、ミルクと砂糖はいかが?」

「砂糖を一つだけ・・・・」

私は思うように言葉が出て来なかった。ちょうどその時、ノックをして真知子さんのお母さんが入ってきた。真知子さんは、私のカップに砂糖を入れてくれ、おまけにスプーンでかき混ぜてくれた。その様子を見ながら、真知子さんのお母さんは微笑んだ。その姿からは、優しさが漂って来るような感じがした。また私への第一印象も決して悪いものではなかったようだと私は安心した。

「今日は、生憎、お父さんが仕事関係の会合が急遽入って、夕方出かけてしまったの。残念だわ」

真知子さんは、言葉とは裏腹に少しも残念そうには見えなかった。

「晴彦さんと仰いましたよね?真知子がいつもお世話になってすみません。真知子は幼い頃は体が弱くて、よく病院通いをさせられましたけど、高校生の頃から病気をしなくなりました。それどころか、最近はいつも機嫌が良くて、台所にもしょっちゅう入ってきて私の手伝いをしてくれるんですよ」

真知子さんのお母さんの言う意味は、野暮な私にも分かる。真知子さんのお弁当が美味しい訳もこれで分かった。この話をしてくれた真知子さんのお母さんの真心が伝わってきて、私は嬉しさがこみ上げた。きっと、このお母さんは二人を応援してくれるに違いない。

「晴彦さん、今度は真知子の父親がいるときに、また遊びに来てくださいね」

真知子さんのお母さんは、私を父親にも会わせたいようだ。私は、真知子さんのお母さんが初対面ながら好きになった。やはり真知子さんに相応しいお母さんだと思った。

「今日は、たいしたおもてなしも出来ないけど。夕飯の準備ができるまで、晴彦さん、真知子の部屋で待っていて」

真知子さんのお母さんは、笑顔を真っすぐ私に向けて言った。その一言で私は、真知子さんの部屋に入ることとなった。

「驚いた。今日、初対面なのに、真知子さんの部屋に上げて貰えるなんて信じられない!」

二人だけになった安堵感から、私は思わず呟いた。

「晴彦さん、母はね、晴彦さんが気に入ったのよ。私には良く分かったわ」

真知子さんも、それがひどく嬉しそうだった。

真知子さんの部屋は、とてもキレイに整頓されていた。大きな熊の縫いぐるみが少し不自然のような気がしたが、ピンクのカーテンの部屋には、旅行のお土産やら、たくさんの置物が専用の木製のケースに収められていた。本棚には、やはり薬学の専門書が所狭しとばかりに並んでいる。私の散らかし放題の部屋とは、月とすっぽんである。

私は、真知子さんの家に伺うのは、まだ先にしたいと考えていた。前にも話したように、もっと社会人としての自信を持ってからが良いと考えていた。真知子さんのご両親に少しも恥ずかしくないと思える人間になってからにしたかった。

それが、こうも簡単に真知子さんの家を訪問することになるとは!だが私は後悔どころか、本当に嬉しかった。真知子さんのお母さんを初対面で好きになるとは思いも寄らなかった。

真知子さんの話だと、元町でのデートから帰った夕方に、さっそくお母さんに話したらしい。「晴彦さんが、母に会うことを望んでいる」と。その時の母親は、とても嬉しそうだったという。

「真知子、晴彦さんという方は、何が好きなの?夕飯を一緒に食べたいと思って」

「晴彦さんは、私の作ったお弁当をいつも美味しいと言って、きれいに食べてくれるから、特に好き嫌いはないみたい。お母さんの料理なら、きっと満足してくれると思うけど。でも、お母さん、初対面の人に夕飯を出すの?」

真知子さんのお母さんは、ただ嬉しそうな顔をするだけで何も答えなかったそうだ。

真知子さんの幼い頃からのアルバムを捲っていると、階段の下から真知子さんのお母さんの声がした。

「お夕飯の支度ができたわよ~」

私は、階段を降りる前に、真知子さんを抱きしめて言った。

「今日はありがとう!真知子さんのお母さんに会えてうれしかったよ!」

真知子さんも私の背中に両腕を回し、顔を上げながら言った。

「お母さんが晴彦さんを気に入ってくれたから、もう大丈夫よ。お父さんは、お母さんの言うことなら絶対だから!」

そのまま、二人は初めての口づけをした。彼女の唇は柔らかく、甘い香りがした。

階段を下りながら、真知子さんは「今日は、カレーライスかな?」と小さな声でささやいた。食堂のテーブルに行くと、お母さんが白い皿のご飯の上にカツを乗せ、カレーをよそっていた。

 

「うわ~ 僕、カツカレー大好きです!」

私は少し興奮したように声を上げた。よく見ると私の皿のカツが、ほかの二人よりもはるかに大きかった。こんなところからも真知子さんのお母さんの気持ちが伝わる。野菜サラダなのかテーブルの真ん中に大皿が置かれていた。

 

「真知子、晴彦さんにパスタサラダをよそってあげたら。晴彦さん、まだカレーもたくさんあるから、いくらでもお代わりして頂戴ね」

真知子さんは、取り皿に大盛りのサラダをよそってくれた。何と表現したらよいのだろうか。母子でこの私に心からのおもてなしをしてくれている。私は、泣き虫だ。嬉しくて、胸が詰まった。

東京の家具製作会社の寮で、仲間と一緒に食べる食事も旨かった。だがいつもという訳ではなく、そうでないことの方が多かった。一人で食べる食事は、寂しく味気なかった。そんな時、私はいつも10年後の自分の姿を想像していた。小さなアパートだけれども、優しい妻と元気な子供たちがいる。賑やかな家族と一緒の食事は、なにより美味しい。きっとそうなる。今は、その時の喜びを何倍にも大きくするための試練だ。そう思いながら独りご飯を食べていた。

真知子さんのお母さんの料理は美味しかった。カツは柔らかく、サクサクしていた。カレーも何か隠し味が入っているようで、我が家のカレーとは一味違った。私は、食べ過ぎた。お腹が苦しい。

「どう、晴彦さん。お腹いっぱいになった?」

真知子さんは、私の顔を見ながら言った。真知子さんのお母さんも続けて言った。

「晴彦さん、こんな食事で良かったら、時々食べに来てね。主人は、会合や出張で家を空けることが多いものだから、男の人がいると安心だわ。ねえ、真知子」

「私も、お母さんと二人っきりで食べるより、晴彦さんと3人で食べる食事の方がずっと美味しいわ」

私は、お腹の苦しさと闘いながら、精いっぱいの笑みを浮かべた。時刻は、もう8時半を過ぎていた。明日も仕事だ。月曜日は特に忙しい。あまり遅くまで真知子さんのお家にお邪魔している訳にはいかない。私は、遠慮がちに言った。

「もうそろそろ、帰ります。明日も、また仕事ですから。お母さんの料理はとても美味しかったです。また、ご馳走になりに来ます。真知子さんのお父さんにも宜しく伝えてください。今日は有難うございました」

私は、真知子さんのお母さんに深々と頭を下げた。玄関まで真知子さんのお母さんは送ってくれ、真知子さんに言った。

「真知子、少し先までお送りしたら」

玄関の戸を閉めるとき、また私は深々とお辞儀をした。

ああ~良かった。真知子さんのお母さんとは気が合いそうだ。心配なんかすることはなかった。もっと早く来ればよかった。私は、心からそう思った。真知子さんと手を繋ぎながら、五稜郭駅に向かって歩いた。途中、小さな公園があった。私は真知子さんの手を引いて、公園のベンチに二人で座った。

「真知子さん、今日は楽しかったよ。もっと早く来ればよかった」

私がそう言うと真知子さんは、私の肩に寄り掛かった。再び私は、真知子さんの柔らかく甘い唇に自分の唇を合わせた。真知子さんは目を閉じて、私に身を任せていた。           つづく

 

※画像は、フォト仲間のSAMさんの、陽光桜と福寿草です。SAMの画像はとても素晴らしいものばかりです。カツカレーとパスタサラダの画像は、ウィキペディア様より拝借させて頂きました。

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