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課題テーマに挑戦「金沢市」第15回

2020年05月30日

 課題テーマに挑戦「金沢市」第15回

前回14回は物語「夕香金沢ひとり旅」の第1回をアップしました。続きまして本日は2回目です。ストーリーも流れで進めているため、申し訳ありませんが、前回の一部を加筆させて頂いております。今後も、加筆のみならず修正があるかも知れません。よろしくお願いいたします。さっそく、第2回をご覧いただきます。

   夕香金沢ひとり旅 第2回

第2章  祖父からの手紙

 夕香は悩んでいた。車窓をただ眺めていた。(私は、何を悩んでいるのだろう?)心の悩みの整理もつかないまま、金沢ならきっと私を元気にしてくれるに違いない。そう信じて「かがやき533号」に乗り込んだのであった。


夕香には父の記憶がない。夕香が幼い頃両親が離婚したのだった。母は、幼い私を連れて故郷のつくばに帰った。

 母は私に優しかった。私を愛してくれる母を、私はもちろん嫌いではなかった。だが、完璧な人間がいないように、母にも欠点があった。普段は優しい母ではあったが、ちょっとした私の間違いや母の考え方と違う行動をすると、その理由の説明もないまま、厳しい言葉で指摘するのであった。
 私はこの母の欠点には閉口した。多分、母が離婚した原因は、この辺にあったのではないかと推測してしまう。もちろん私の記憶にない父にも多くの欠点があったのだろう。理由はどうであれ、しょっちゅう諍いを起こしている家庭で育てるよりも、両親が住んでいる、私にとっては祖父母の住んでいるつくばで私を育てることが、より私のためには良いと考えたのだろう。


 幼いころの私は、友達にはお父さんがいるのに、どうして私にはいないのか、口にすることはなかったけれど、心の中では友人が羨ましくてならなかったのを覚えている。辛いことがあった時、嬉しいことがあった時、小さな胸が張り裂けんばかりに悔しがった記憶がある。
 思春期になるまでは、私は母の言う通り何でもその指示通り生きてきたが、中学生の高学年になると、私は母と何度も諍いを起こした。その度に八十路に近い祖母が仲裁に入ってくれた。
 高校3年生のある日、進学のことで母と争った。母は私が勉強好きなのを知っていたので大学に進むことを許してくれた。だが、進学する大学は母が勝手に決めた。我が家から通学するのにはとても便利な国立大学だった。確かに私が学びたい学部があり、優秀な教授や準教授が揃っていることでも全国に知られている。しかし、私が希望しているのは東京の港南大学だ。その大学のⅯ教授の授業をどうしても受けたい。それに若いうちに日本の首都での生活を経験しておきたかった。


 母は、「我が家にお前を大学にやれる余裕などないのだけれど、お前が可愛いから何とか行かせてあげようとしているのに、何をわがまま言っているの!」と怒鳴った。奥の部屋から、祖母が慌てて出てきて言った。
 「夕香、私もお前が可愛い。何とかお前の望みを叶えてあげたい。私も年金の中から毎月5万円を都合してあげる。それにお前のために残して置いた私とおじいちゃんの預金がある。心配ないから、お前の好きな大学に行きなさい。それから、働いてから自分で返す奨学金も借りなさい」
母は、何も言わなかった。昔、勝手に離婚して転がり込んできた娘親子を何も言わずに受け入れ、親子の面倒を見てくれたこの祖母だ。母も同意せざるを得なかった。祖母は続けて言った。
 「夕香、夕飯の後、私の部屋に来なさい。お前に渡したいものがある」
夕香は食事が済んで一休みをした8時過ぎに祖母の部屋に向かった。
 「夕香、お前は覚えているか分からないが、お前のおじいちゃんからお前への手紙を預かっている。15歳以上になって、夕香が悲しんでいるときや、人生の岐路など大事な時に渡して欲しいと言われ、もう15年も前に預かった。おじいちゃんは健康に自信がなかったので、万が一のことを考えて、お前が2歳の時に書いた手紙だ。この手紙を預かってから3年後におじいちゃんは亡くなった。好きな時に開けて読んでごらん」
封筒は15年の歳月を感じさせないままの状態だった。祖母が大切に保管していてくれたためだろう。夕香は、その晩ベッドに入る前にひとり封筒を開けた。便箋が1枚入っていた。
 
- 世界で一番大好きな夕香ちゃんへ -

じいじは 夕香ちゃんが世界で一番大好きです
じいじは 夕香ちゃんが大きくなるまで傍にいたいです

じいじは 夕香ちゃんの成人式が見たいです
じいじは 来年70歳 いつまでも生きていられないのです

夕香ちゃんが ずっと元気で
そして幸せであるよう祈っています

もし じいじが生きていなくても いつも高い空の上から
夕香ちゃんを見守っています

泣きたいときは 思いきり泣いてください
じいじが守ってあげます

やさしく こころも姿も
美しい人になってください  じいじより

夕香は、顔も覚えていない祖父の想いに頭を垂れた。              つづく

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