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課題テーマに挑戦「鳥海山」第21回

2017年11月18日

 課題テーマに挑戦「鳥海山」第21回

「鳥海山物語」の前回は、11月4日でした。その間、新しく追加したブログ「創作の小部屋」に4題ほどアップしました。本当は短く分けた方が読みやすいかとも思いましたが、却って回数が増えてしまい続きを探す手間がかかるので一気にテーマごと(おわり)まで載せました。

この「鳥海山物語」は、本日仕事が休みでまた小雨が降っていましたので、朝から書き始めました。この方法は、脈絡や整合性の問題があり、結局前の部分を読み返してからストーリーを考えるということで、能率は芳しくありません。またいつも決まった日や曜日にアップしている訳ではありませんので、皆さまには定期的な閲覧が出来ずにご迷惑をお掛けしていることは充分に理解はしております。その点につきましては、大変申し訳なく思っております。心からお詫びを致します。

それでは、さっそく「鳥海山物語」に入らせて頂きます。

 鳥海山物語    

第4章(4回目)  昭和51年3月

由美子は、驚きました。母は、自分の味方だと信じていたからです。惣一郎との恋を認めてくれ、応援してくれているとついさっきまでそう思っていました。それなのに、伯父の秀夫が持ってきた縁談に大乗り気なのです。

伯父の縁談は確かに悪くはありませんでした。相手は町役場に勤めている27歳の青年で、写真を観る限り整った顔立ちはとても優しそうであり、また凛々しさも感じられる感じの良い青年でした。両親は共に学校の先生を職業としているとのことで、嫁を迎えるにあたって一緒に住むのではなく敷地内に息子夫婦のための新居を建てる準備をしているとのことでした。

母がどれだけ気に入ろうとも、由美子には総一郎しか視界にありませんでした。

「伯父さん、私まだお嫁に行く気は全然ないの。心配してくれて、しかもこんないい話を持ってきてくれて、涙が出るほど嬉しい。でも、ごめんなさい。私はまだまだお嫁に行く気がないのに、相手の人に無駄な時間を掛けさせては申し訳ないから、断って欲しいの。本当にごめんなさい。」

由美子は、素直に詫びました。しかし、由美子の話を終えると同時に母のふみ子が少し荒い声で口を挟みました。

「由美子、こんな好い縁談はめったにあるものじゃない。この人はとても良さそうな感じの人だし、まして敷地内に新居を建ててくれると言う話だ。

この私も、お産や何やらの時に、遠慮せずにお前の所に行くことが出来る。私は、この縁談に賛成だ。今、断らないで少し考えてからにしよう。

秀夫兄ちゃん、私が由美子に良く話して聞かせるから、この話進めてくれないか!」

由美子は信じられませんでした。眩暈がするほどの衝撃でした。どうして、どうして、母は私の気持ちを知りすぎているはずなのに!

由美子は表に飛び出し、鳥海山が真正面に見えるいつもの田んぼ道の岩まで走り続けました。岩に腰を降ろしましたが、涙が後から後から絶えることなく溢れてきます。鳥海山は真っ白な雪に覆われ、いつものように勇壮な姿でした。由美子は鳥海山に向い両手を合わせました。

「私は、総一郎さんと一緒になりたい。どうか私の夢が叶いますように!」幼い時から父の姿を知らない由美子にとっては、鳥海山は父親でした。涙が出尽くし、日も落ちて辺りが闇に覆われそうな自分にやっと由美子は家路に向かいました。しかし少し強い風が吹くと倒れてしまいそうな弱々しい姿でした。

由美子が、母に逆らったことは物心ついた時から一度だけでした。総一郎との交際を禁じられた後も、母のふみ子に内緒で総一郎との逢瀬を重ねたとそのときだけでした。母のふみ子は、今回の縁談も良く言い聞かせればきっと由美子は分かってくれるはずだと、そう思っていました。素直で母思いの優しい由美子が、母のためでなく由美子のためを思っての真心を受け入れてくれない筈はない。それを確信していました。

その晩のことです。由美子が母にご飯をよそって渡すと、母のふみ子の顔がいつもの穏やかさがなく、何かを胸の中に押し込んでいるのか、強張った表情に見えました。

「由美子、今日は、どうしたんだ?秀夫兄ちゃんが折角縁談を持ってきてくれたのに、途中で家を飛び出して!こんな良い縁談、滅多にあるもんじゃない。お前の気持ちが分からぬ訳でもないが、おまえを心配してくれる人に背を向けて逃げ出すとは、どういうつもりだ。」

母の言葉からは優しさは感じられず、何が何でも母の考え通りに事を運ぶつもりであるかのような、母の胸の内が感じられました。

由美子が下を向いて黙っていると更にふみ子は続けました。

「由美子、この際はっきり言っておくが、この縁談をこの私は進めるつもりだ。お前が、総一郎さんを好きなのは分かっている。出来ることなら一緒にさせてあげたい。娘の幸せを願わない親はいない。お前は、父親の顔も知らずに育ったけれど、素直な良い娘に育った。お前には、幸せになってもらいたいが、総一郎さんとの結婚は諦めろ。総一郎さんの親が絶対許してはくれない。

総一郎さんはお前と一緒になるためなら、きっと佐々木家を飛び出すだろう。お前も総一郎さんも、それが一番幸せの道だと思うに違いない。

そうなると総一郎さんは東京の会社を辞められない。当然お前も東京に行くことになる。私は我慢するとしても、総一郎さんは一生佐々木家の敷居をまたぐことが出来ない。孫が出来ても親に見せることも出来ない。孫の顔を親に見せられない息子ほど、親不孝な子供はいない。お前も、年を取ってその時になれば分かる。

それに総一郎さんの父親は、恩義ある人の土下座までも拒んだ酷い人と噂が立ち、これからの世間の見方も変わって生きづらくなるに違いない。

二人が幸せなら親がどうなっても構わないという生き方が、本当の幸せと言えるのだろうか?二人の我が儘なだけじゃないのか?

そう言えば、お前は総一郎さんとはしばらく会っていないようだが、何かあったのか?総一郎さんも親に反対されて、泣く泣く由美子と別れようとしているのではないのか?」

由美子は涸れたはずの大きな涙をまた流し始めました。

(そんなことはない!総一郎さんに限ってそんなことはあり得ない!)

由美子は心の中で叫んでいました。                   つづく

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